アルニコマグネット・スピーカーユニットの歴史

スピーカーにこだわる人でも、ユニットに使われるマグネットにまでこだわる人は少数派です。
ウーファーとツイーターの組み合わせや、エンクロージャーを密閉型にするか、バスレフ型にするか、などのこだわりはあっても、マグネットについては注目する人は少ないです。
実際、スピーカーにおけるマグネットの重要性については、メーカーによっても意見が分かれていたりします。

この記事では、そんなマグネットが実はスピーカーシステムにおいて大きな働きをし、マグネットの違いがスピーカーの質を大きく左右することについてお話しします。

スピーカーユニットにおける磁石の役割

スピーカーの仕組み

スピーカーユニットには、ボイスコイルと呼ばれるコイルと、永久磁石がセットになっており、電気信号がコイルに流れると、フレミングの左手の法則によりコイルが前後に運動し、それが振動版に伝わって音が生み出されるというのはよくご存知でしょう。
磁石は、磁界を作り出すために必要なわけです。

磁石がスピーカーの性能を左右する

では、なぜスピーカーにおいて磁石にこだわる必要があるのでしょうか?

それは、磁石とは一様に同じように磁力を発するとは限らないからです。
磁石は種類によって、その材質が異なり、その違いが磁石の性質を異なるものにします。
では、高級オーディオに好んで使われる磁石―アルニコマグネットとは、どういう特徴のある磁石なのでしょうか?

アルニコマグネットの特徴

アルニコマグネットとは

アルニコマグネット(アルニコ磁石)とは、アルミニウム・ニッケル・コバルトを鋳造して作る磁石です。アルニコの名前は3種の金属の頭文字を並べたものになります。
20世紀半ばまでは磁石の中心的存在でした。
特徴としては、強い磁力を持つということがあり地球磁場の約3000倍にあたる1500ガウス程の磁束密度をもちます。

アルニコ磁石の短所

短所は、保磁力がそれほど強くないので、長期間使用すると減磁してしまうということがあります。

もう一つの欠点は価格が高いことです。
コバルトは現在でもレアアースの一つですが、1960年代のコンゴ動乱により、コバルトの価格が高騰した結果、アルニコ磁石の価格も高騰しました。

以後、価格の高いアルニコ磁石に代わって、広く使われるようになった磁石がフェライト磁石です。

フェライト磁石

フェライト磁石は、酸化鉄を主原料に、バリウムやストロンチウムなどを微量加えて焼き固めた化合物を、さらに粉砕して成形してつくる窯業製品です。
そのため、さまざまな形に成形しやすいことと価格が安いという長所を持っています。
セラミック技術の進歩と、価格競争力を武器にフェライト磁石は、さまざまな分野でアルニコ磁石にとって代わっていきます。

アルニコマグネットを使ったスピーカーの特徴

スピーカーにおける磁石

スピーカーにおける磁石も、以前はアルニコ磁石が主流でした。
エジソンにルーツをもつあのゼネラル・エレクトリック社が1931年に発売したスピーカーにも、アルニコ磁石が使われています。
しかし、1970年代以後は、アルニコ磁石の価格高騰により、フェライト磁石を用いたスピーカーが主流になっています。

では、この二つにはどのような違いがあるのでしょうか?

アルニコ磁石とフェライト磁石の違いとスピーカーの外形の違い

先ほど述べたように、アルニコ磁石は合金であり、フェライト磁石はいわば陶磁器(セラミックス)なので磁気特性が異なります。
フェライト磁石は表面積が広いドーナツ形にして使うと、最も効率的に磁力を得られます。
逆にアルニコ磁石は、丸棒状で使うのが効率的です。
この形状の違いにより、フェライト磁石を使ったスピーカーでは、ドーナツ状のフェライト磁石の内側をボイスコイルが移動する外磁型と呼ばれる形式になります。
一方、アルニコ磁石の場合は、棒状なのでその外側をボイスコイルが前後移動する形式である内磁型と呼ばれます。
スピーカーユニットの形状で、後部が長いものと、短く平べったい形状の違いは使われてる磁石の違いに由来します。

フェライト磁石の進化

フェライト磁石は当初、強い磁力をもつアルニコ磁石並みの磁力を得るには大型にしなければならないという欠点がありました。
しかし、技術の進歩により徐々に小型化が進み、小さなスピーカーユニットにも使えるようになってきました。

では、フェライト磁石よりもアルニコ磁石スピーカーの方がより優れているという根拠はどこにあるのでしょうか?

アルニコマグネットスピーカーにこだわる理由

磁束密度が音質を分けるのか?

かつては、磁束密度が同じであれば音質に違いは生じないと考えられていました。
ゆえに、磁力の劣るフェライト磁石の形状研究や性能の向上が進むにつれ、フェライト磁石でもアルニコ磁石でも、性能に違いは無くなった、とされ、高価なアルニコ磁石をわざわざ利用する意味はないと考えられた時期もあったのです。
しかし、オーディオ性能のあくなき探求を目指す一部の開発者には、アルニコマグネットスピーカーの方がどうしても音質がいいように思われました。

それは、一種の感覚的違いなのだろうか?
アルニコ磁石へのブランド信仰に過ぎないのだろうか?

技術者の間でもすぐに答えは出ませんでした。

逆起電力による磁界の変化

答えのヒントは、スピーカーユニットにおける磁界の変化にありました。
スピーカーの仕組みは、フレミングの左手の法則で説明できます。
ボイスコイルに電流が流れると、その電気エネルギーが磁場で発せられる磁束の影響を受けて力が発生します。
ただ、その時に電流の増減によって磁場の変化が起こり、それが作り出す電磁誘導によりもとの電流の流れを妨害する方向に誘導起電力(逆起電力)が生じるのです。
スピーカーにおいては、音声信号の電流が流れたときに、逆起電力により磁界が変化し、磁界が振られるという現象が起こっているのが発見されました。

磁界の変化による音質への影響

では、磁界の変化は音質にどのように影響を与えるのでしょうか?

ボイスコイルは、ある特定の音声信号の電流が流れると、それに対応する特定の運動をして、その結果特定の音が常に再現されないと意味をなさないのは容易にわかると思います。
磁界に影響を与える磁束が、固定磁石(アルニコ磁石であれ、フェライト磁石であれ)だけなら、それが可能です。
ところが、電流を流し続けるうちに磁界そのものが変わると、ボイスコイルの動きの基準点であるゼロ点電位というものが変わります。
その結果、ボイスコイルの動きの大きさ・量も一定ではなくなります。
電流は同じでも、磁束量が変わる(固定磁石だけでなく、逆起電力による磁力の影響で)ので生まれる力も変わるためです。
ボイスコイルの動きが影響を受けると、振動版に伝わる力が変わり、音質が変わるのは自明の理です。
実際、逆起電力の影響を受けると音質が一定せず、音が濁っていきます。
音の再現性に大きな影響を与えるのは当然です。

アルニコマグネットスピーカーの優位性の秘密

アルニコ磁石は金属で、フェライト磁石はセラミックです。
アルニコマグネットスピーカーの場合、金属素材のアルニコ磁石を使っているので逆起電力がショートされていたのでした。
その違いがアルニコマグネットスピーカーの音質の安定性、澄んだ音、音源の再現性の高さを生み出していたのです。
フェライト磁石は完全に絶縁されているので、逆起電力をショートすることができません。
その結果、ボイスコイルの入った部分の磁界が変わり、ゼロ点電位が変化して音質の一定性が確保できず、音が濁ってしまうのです。

アルニコマグネットスピーカーは、「自然にショートさせる」

フェライトマグネットスピーカーでも、スピーカーのセンターポールに銅の「ショートキャップ」を装着してショートさせることも考えられました。
しかし、今度はそのショートキャップそのものによって、磁界が影響を受けてしまうという悪影響が確認され、アルニコマグネットスピーカーの音の安定性には届いていません。
また、強制的にショートさせようとすると、ボイスコイルの動きも影響を受け、音声信号に対して自然な動きができなくなり、音が詰まってしまうことが認められました。
アルニコ磁石だと、「自然にショートさせる」ことが可能になり、それも音質の決定的な差になっていたのです。

80年代のスピーカーをめぐる出来事

アルニコ磁石の価格が高騰した1980年代、アルテックやJBLなどのスピーカーメーカーは、アルニコ磁石を使っていたスピーカーユニットを、磁石だけフェライト磁石に変えて発売しました。
磁力の強さだけ合わせて型番は変えずに販売しました。出力や音圧はほぼ変わらなかったのですが、音質は劣化してしまいました。

マグネットの再着磁の必要性

アルニコマグネットスピーカーの欠点

アルニコマグネットスピーカーは高価な分優れた性能があるのは、ご理解いただけたと思います。
ただ、使用や購入(特に中古品)に関しては注意点があります。
それは、アルニコ磁石は減磁の影響を受けやすいということです。
その結果、長期間使い続けると、発売当初に比べて音質が変化するという欠点があります。

再着磁によるマグネットの調整

この欠点を補うには、再着磁という方法があります。
具体的には、専門の業者に依頼して、特注の着磁機を用いることで、一定の磁力を再現することができます。
また、ほとんどのスピーカーが製造段階で磁力にばらつきがあることも判明しており、新品のスピーカーでも、専門業者による再着磁がお勧めです。

再着磁の時期

一般には、製造後10年以上経ったスピーカーは、再着磁と調整で新品以上の音質を出せるようになります。
製造段階の状態を取り戻すだけでなく、それぞれのユニットを統一した条件で着磁しなおすからです。

まとめ

アルニコマグネットスピーカーの長所と、注意点よくご理解いただけたと思います。
長く使えるヴィンテージオーディオ機器は、オーディオファンの憧れですが、アルニコマグネットスピーカーは、再着磁などにより、より価値を高めることができます。
私ども、オーディオランドのような、高級オーディオに精通した業者にご相談いただくことで、お手持ちのアルニコマグネットスピーカーの価値をさらに高めたり、本当に価値のあるスピーカーをお求めいただけることと思います。
音源をより忠実に再現してくれるアルニコマグネットスピーカーのもつ実力を、十分に楽しんでいただきたいと心から願っております。

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